特ダネをめぐって取材先とぶつかった話

マスコミ

新聞記者になって1年が過ぎたころ、私は同期でも良い成績を出していた。

 

つまり、警察担当として特ダネをたくさん書いていた。

 

まず以下のような理由から、特ダネ情報は同じ人に集中することが多い。

  • 特ダネを一度くれた人と信頼関係ができ、次回もネタをもらえる
  • 仕事ができる記者という評判が立つので信頼されやすい
  • 特ダネを取る自分なりの方法が確立されている

 

昔話でしかないが、 当時の私はコツをつかみつつあったので様々な情報を持ってくることができた。

壁にぶつかったのはその時だった。

今回はその話を書こうと思う。

 

1.特ダネを取る方法

newspaper

 

警察担当の記者にとっての特ダネといえば、「前打ち」と呼ばれるニュースだ。

 

「〇〇氏を今日逮捕へ △△容疑」

このような、捜査当局の動きを読んで配信するニュースのことだ。

 

重大事件だと駅の売店の売り上げにも影響するので、特ダネを書かれると他社は大ダメージを受ける。

担当記者は翌朝の新聞を見て、飛び起きなければならない。

 

そもそも誰かが逮捕されそう、という噂を聞くのは簡単だが、

  • 逮捕の日付
  • 逮捕容疑
  • 逮捕される人のプロフィール

これらを裏どりするのは極めて難しい。

 

誤報を書いてしまったら人権問題だし、タイミングを間違えると犯人が逃げる可能性もある。

1人から話を聞くだけだと勘違いの場合もあるので、捜査当局内に協力者が何人もいないと記事を書けない。

 

警察官A「詳しく言えないけど、××の事件を捜査しているね」

警察官B「××事件? あれは去年の年末にあって2人組の犯行だよ」

警察官C「××事件の2人は今月逮捕できるように調整中みたいだな」

警察幹部D「調書が欲しいのか?しょうがないからやるよ」

 

このように雪だるま式に情報を集めていって初めて記事が出来上がる。

 

入社1年目の私は警察官に毎日会い、様々な捜査情報を頭に詰め込んでいった。

そもそもフランクに話せる間柄を作らないといけないので、本当に地道な作業だったと思う。

 

警察担当を始めて1年が経つ頃には、警察官に電話をかけるだけで捜査情報を教えてもらえるようになっていた。

 

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2.警察官が情報漏洩する理由

police

特ダネをめぐって、警察官の心境は複雑だ。

 

記者が情報の扱いを間違えると、犯人が逃走したり、証拠を隠されるリスクがある。

そもそも捜査情報の漏洩は違反なので、見つかると厳しく処分される。

 

だが、マスコミが大きく報じると防犯面での効果があったり、社会に対する啓発ができるという一面もある。

 

個人的な経験から言うと、記者に捜査情報を渡す人は私利私欲のためではないことが多かった。

 

ある警察幹部は、

「捜査員は家をほとんど帰れず、家族にすら仕事の内容を明かせない。自分が解決した事件を家族にも見せたいと感じる捜査員は多い」

記者に情報提供する理由をこう話していた。

 

「間違った記事がでないように事前にある程度の情報を渡している」

「情報を渡して記者をコントロールするため」

 

記者に情報をくれる警察官に何人も会ったが、みんな自分なりに理由を持っていた。

 

中には単なるストレス発散だったり、女性記者の気を引きたいからネタを渡すような警察官がいたのも事実だが極めて少ないと思う。

 

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3.ある日、取材先とぶつかった

noise

そんな中、取材先の警察官とぶつかった。

 

特ダネを出す前は、迷惑をかけないように事前に関係者に伝えるのが常識だ。

記事に向けた心の準備をしてもらうためでもある。

 

この日も、追っていた事件の犯人が逮捕されることが判明したので、

ナオキ
ナオキ
「警察が逮捕する方針」という記事を書きますね

こう伝えたときだった。

 

急に、「書くのは止めてくれ」と態度を変えたのだ。

その警察官はこれまで知っている捜査情報をほとんど教えてくれていた人だった。

 

だが既に裏取りが終わり、記事を上司に点検してもらっている最中だった。

当時の私に記事化を止める力はなく、「もう止められない」と謝るしかなかった。

 

翌日、その記事は特ダネとなったが、あの警察官との会話は一切なくなってしまった。

 

スマホには「もう、これまでです」というメッセージだけが送られてきていた。

信頼関係がなくなってしまったのだ。

 

 

この出来事は自分のなかで大きな反省として残っている。

 

当時の私は仕事で評価を得ることに夢中になりすぎ、自分勝手に情報を発信してしまった。

そして、リスクを負って助けてくれた取材先を危険にさらしてしまった。

 

その後、私はすぐ他県に異動した。

 

数年後、その警察官から「元気ですか?」というメールが届いて関係は回復したが、一連の出来事は私を大きく成長させてくれたと思っている。